キーワード

日本人に多い、もやもや病を専門的に診療

脳脊髄神経外科 東野 芳史 助教 菊田 健一郎 科長・教授

もやもや病とは

もやもや病は、日本人をはじめとしたアジア人種に多く発生する病気です。1960年代に国内で発見され、世界に発表されました。英語でも“moyamoya disease”といいます。人口10万人当たり6~10人程度と推定されています。脳に血液を送る血管(内頸動脈(ないけいどうみゃく))が、頭の中に入った後で狭窄(きょうさく)(細くなる)または閉塞(へいそく)(完全に詰まる)し、その代わりに周囲の毛細血管が拡張してきます。この毛細血管が画像検査で「もやもや」して写ることに由来しています(写真1)。子どもの頃から正常の血管が細くなり始め、徐々に「もやもや血管」が増えてきます。国内では厚生労働省の特定疾患に認定されており、医療費の公的助成があります。

写真1 [左]正常
[右]内頸動脈の高度狭窄:
もやもや血管が認められる:

小児と大人で異なる、もやもや病の症状

小児と大人で発症の形式が異なります。

小児では、主に内頸動脈が細くなることによる脳の虚血(きょけつ)(血流不足)症状で見つかります(虚血型もやもや病)。具体的には、ラーメンにふーふーと息をかけて冷ましたり、リコーダーやピアニカなどの楽器を吹いたりすることにより、過呼吸(かこきゅう)になったときに起こる脱力発作や言語障害です。また片頭痛に伴う麻痺(まひ)や、学習障害で発見されることもあります。

大人の場合、虚血に加え、「もやもや血管」が破れることによる、脳内出血・くも膜下出血で発症する割合が増えます(出血型もやもや病)。

もやもや病の診断

MRIや脳血管撮影といった血管の形を評価する検査と、核医学検査(PETなど)といった脳血流を評価する検査を行い、手術の必要性を決めます。当院では、2016年に最新のGE社製PET/MRIが導入され(国内初、2017年現在4施設のみ)、これを用いて脳血流の評価を行っています。

もやもや病の治療

1.虚血型に対して

(a)内服薬
血液を詰まりにくくする抗血小板薬がありますが、これだけでは完治せず、出血の副作用もあります。

(b)手術
根本的に内頸動脈の狭窄または閉塞を改善させることはできません。しかし脳梗塞(のうこうそく)の発症を予防することは可能です。手術は大きく2つに分けられます。
① 直接血行再建術:頭皮の血管を脳表の血管に直接吻合(ふんごう)する(以下、バイパス術、写真2、3)。
② 間接血行再建術:頭皮の血管や筋肉など血行の豊富な組織を、脳表に癒着させる手術。じわじわと脳の表面に血液を送るようになる。

写真2 バイパス術、血管吻合後(1目盛=1mm)

写真3 術後の血管撮影
頭皮の血管から脳の血管が写る

小児では①と②を組み合わせて、成人では主に①を単独で行います。

2.出血型に対して

(a)緊急手術
脳内出血で発症した場合は重症であることが多く、そのときは緊急で血腫(けっしゅ)を取り除きます。

(b)再出血予防のための手術
これまではバイパス術は脳梗塞の予防にはなっても、脳内出血を予防できるかが不明でした。2014年に国内で発表された論文で、出血型もやもや病の患者さんにおいて、バイパス術が再出血を減らす効果があることが明らかになりました(1年間の再出血率が、経過観察では7.6%、バイパス術では2.7%に減少)。

もやもや病はまれな病気ですが、最近は無症状でも脳ドックなどで発見される方が増えています。しかし、これまで福井県内にはもやもや病の専門病院はありませんでした。当科では2009年から専門的な診療を行っており、過去5年間で約30件のバイパス術を施行しています。