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肺がんの分子標的薬治療と免疫療法

呼吸器内科 石塚 全 科長・教授

2種類ある肺がん

進行した肺がんでは薬による治療が行われます。肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2種類に分けられてきました。非小細胞肺がんは肺がん全体の80%以上を占め、治療が難しいがんでした。

分子標的薬治療とは

非小細胞肺がんは扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと非扁平上皮がん(その多くは腺がん)の2つに分けられます。非扁平上皮がんの治療には分子標的薬と呼ばれる薬が使われるようになってきました。非扁平上皮がんでは、がんを引き起こす遺伝子異常がみつかることがあります。

遺伝子異常の代表格がEGFR遺伝子の異常です。タバコを吸わない女性の肺がんに多くみられます。EGFR遺伝子の異常がみられる場合には、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬という飲み薬が治療に用いられます。これまで使われてきた3種類の薬は非常によく効くのですが、1年ほどで薬が効きにくくなることがあります。この場合、EGFR遺伝子をもう一度調べると新たな異常がみつかることがあり、新しい4種類目の薬が効くことが分かってきています。現在は、新たに治療を開始する患者さんには、最初から4種類目の新しい薬が使えるようになりました。

ALKという遺伝子に異常がある肺がんには、ALK阻害薬という飲み薬が使用されます。現在までに4種類の薬が販売されており、進行した肺がんであっても長期間生きられるようになってきました。そのほか、ROS1、RET、BRAFという遺伝子異常が肺がんにみつかることがあり、ROS1の遺伝子異常がみつかった患者さんには、ALK遺伝子異常の患者さんに使われていたお薬の1つが使えるようになりました。またBRAFの遺伝子異常がみつかった患者さんには2種類の新しいお薬を組み合わせて飲む治療ができるようになりました。

免疫療法とは

最近、進行した非小細胞肺がんの患者さんに免疫療法が非常に有効であることが分かってきました。人間には本来、異物である肺がん細胞を攻撃する免疫力が備わっています。肺がん細胞がPD-L1という物質を持っていて、がん細胞を攻撃するリンパ球が持っているPD-1という物質と反応してしまうと、リンパ球が肺がん細胞を攻撃できなくなってしまいます。このPD-L1とPD-1の反応を抑える働きを持つ薬(注射薬で免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれます)が肺がんの治療に使えるようになりました。

肺がんを診断するためには、肺がんの組織(細胞を含む塊)を採取することが大切です。特に採取した肺がん細胞にPD-L1という物質が多く観察されるときには、従来の抗がん剤を使った治療よりも免疫療法の方が効くことが分かってきました。また、従来の抗がん剤を使った後、効かなくなった場合にこの免疫療法を行うことが多くなってきました。最近では放射線と従来の抗がん剤を組み合わせた治療後に免疫チェックポイント阻害薬を使う治療が推奨されています。さらに、もうすぐ、従来の抗がん剤治療と免疫チェックポイント阻害薬を同時に組み合わせて投与する新しい治療法が始まると思われます。

専門医・認定医が最適な治療を選択

進行した肺がんや手術後に再発してしまった肺がんの治療は急速に進歩しています。患者さんの肺がん細胞の遺伝子や肺がん細胞の特徴を検査して、個々の患者さんに最適な薬による治療を行うことが大切です。当科は気管支鏡という肺の中へ入れるカメラを駆使して、肺がんの組織を採取し、確実な診断を行う検査を得意としており、多数の気管支鏡専門医がいます。また呼吸器専門医、がん治療認定医が最適な治療を提供します。