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乳がんの最新治療
乳腺・内分泌外科 前田 浩幸 科長・准教授
乳がんとは
がんにかかる方は、毎年増加しており、生涯で約半数の方ががんに罹患するようになりました。乳がんは、女性が罹患するがんの中で、最も頻度(ひんど)が高く、この20年間で2倍に増加し、急速に増えています。特に、40~50歳代の働きざかりの女性に多く、75歳未満のがん死亡の第1位です。40歳からは、乳がん検診を2年に1回、定期的に受けることが早期発見につながります。また、乳がんにかかった場合には、再発しない治療が必要となります。そこで、乳がんの再発を少なくする当科での最新治療を説明します。
乳がんの治療
乳がんの治療は、手術、放射線治療、薬物治療(ホルモン剤、抗がん剤、抗体治療薬)があります。乳がんの乳房内の広がり方や、リンパ節の転移状況で手術治療と、放射線治療が決まります。また、患者さんの年齢や、乳がんの進行度(病期、ステージ)と乳がんの性質を調べて、薬物療法が決まります。現在、これらの治療を組み合わせて、乳がんの治療を行っています。
当科では、2003年から米国の「NCCN乳がん治療ガイドライン」にもとづいて乳がん治療を行ってきました。その結果、当科で治療を受けた患者さんの乳がん5年生存率は、2002年以前と2003年以降で比較したところ、82%から93%へ有意に改善していました(図1)。
当科での最新治療
1.手術治療
乳房の手術
乳房を一部残す乳房温存切除と、乳房を全部切除する乳房切除術があります。乳房温存手術で大切なことは、部分切除した乳腺の端にがんの遺残(取り残し)がないことです。以前は、乳腺断端部の少量のがんの遺残は、放射線治療や、薬物治療で再発を抑えることは可能と思われていましたが、乳腺断端の再発により、肺や骨などの遠隔臓器へ転移する危険性が高くなり、予後(治療経過)に影響を与えることが明らかになってきました。
当科では、乳がんの乳房内の広がりを、マンモグラフィー、超音波検査、MRI、CTを用いて診断し、乳房温存手術が可能であるかを決定したり、温存手術をする前に、乳腺切除範囲を慎重に決定しています。放射線治療を併用した乳房温存手術を、2000~2016年までに246例行っていますが、乳房内再発を認めていません。
また、やや広く乳房を部分切除する必要があって、整容性(外観)に不安がある患者さんには、形成外科の先生によって、背中の筋肉を、前胸部に移動させる広背筋皮弁手術(こうはいきんひべんしゅじゅつ)を乳腺温存手術と同時に施行し、温存乳房の変形がなくなるようにしています。乳房温存手術を施行する割合は、全乳がん手術の48%でした。
乳がんのしこりが大きい場合や、乳腺内に乳がんが広範囲に及んでいる場合には、乳房を全部とる乳房切除術を行っています。乳房切除後の乳房再建手術(乳房の形を元通りに再現する手術)が保険適用となり、当院では形成外科の先生が、乳がん手術と同時に乳房再建手術を行っています。
1983~2002年(前期) | 2003~2012年(後期) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
病期 | 症例数 | 5年生存率 | 追跡率 | 症例数 | 5年生存率 | 追跡率 | 有意差検定 |
0 | 3 | 100% | 1 | 17 | 100% | 1 | |
Ⅰ | 58 | 94% | 0.88 | 77 | 99% | 1 | |
Ⅱ | 63 | 93% | 0.92 | 89 | 95% | 1 | |
Ⅲ | 46 | 62% | 0.98 | 41 | 85% | 1 | |
Ⅳ | 10 | 23% | 0.9 | 13 | 56% | 1 | |
全体 | 180 | 82% | 0.92 | 237 | 93% | 1 | *P<0.05 |
* NCCNガイドライン治療を行った後期の乳がん患者さんでは、前期の乳がん患者さんと比べて有意に5年生存率が改善していました

図1 当科で治療された乳がん患者さんの5年生存率
再建手術の方法には、シリコンインプラントと呼ばれる人工物を使用する場合と、患者さん自身の下腹部の皮膚と脂肪を用いる場合の2通りあります。同時に再建手術が可能であるのは、乳がんの病期(進行度)が、0期、Ⅰ期またはⅡ期の乳がん患者さんです。乳がん治療を優先したいと思われる患者さんは、後日再建手術を受けることも可能です。乳房再建手術を希望される患者さんは、再建手術を受けるかどうかの決定を、形成外科の先生と十分に話し合うことが大切です。
腋窩リンパ節の手術
乳がんは最初に、腋窩(えきか)のリンパ節に転移します。その頻度は、手術を受ける乳がん患者さんの3割から4割くらいです。腋窩リンパ節に転移があるかどうかを調べる方法に、センチネルリンパ節生検があります。センチネルリンパ節は、約10~20個ある腋窩リンパ節の中で、最初に乳がんが転移するリンパ節のことをいい、日本語では見張りリンパ節とも呼ばれます。乳がん手術中に、このリンパ節を1個または数個摘出して病理検査へ提出します。
病理検査では、摘出したリンパ節を2mmの厚さで細かく切り、その断面を顕微鏡で検査します。小さいリンパ節転移も診断可能です。30分くらい経過すると、転移があるリンパ節か、転移のないリンパ節かが手術中に判定されます。リンパ節転移がない場合、または2mm以下の小さいリンパ節転移がある場合には、周囲のリンパ節に転移がないと判断され、腋窩リンパ節郭清(腋窩リンパ節を広く摘出する手術)を省略しています。その結果、リンパ浮腫(ふしゅ)と呼ばれる上肢の腫(は)れやしびれ、痛みがなくなり、手術後の生活に支障がなくなります。
一方、センチネルリンパ節に2mmを超えるリンパ節転移がある場合、または手術前に明らかにリンパ節が腫れている場合には、乳がん手術と同時に腋窩リンパ節郭清を行います。この手術により、転移を認めるリンパ節の個数が分かるため、正確な乳がんの病期(進行度)が決定できます。この情報をもとに、全身再発予防のための抗がん剤治療や、腋窩リンパ節郭清で切除できない鎖骨上リンパ節の再発予防のための放射線治療を選ぶかどうかの判断が可能になります。
当科では2003年から、腫瘍(しゅよう)の大きさが5cm以上または、腋窩リンパ節転移が4個以上の乳がん患者さんに、予防的に、乳房切除後の放射線治療を診療ガイドラインに沿って行いました。その結果、現在まで、腋窩リンパ節郭清を施行した患者さんの中で、腋窩リンパ節再発した患者さんはいませんでした。腋窩リンパ節郭清を受けた患者さんの5割程度には、軽度のものを含め、上肢のリンパ浮腫を認めているという報告があります。
当院では、乳がん手術後に理学療法士が、上肢のリハビリ治療を行っています。また、乳がん認定看護師が、このリンパ浮腫を治す治療(「リンパ浮腫ケア外来の活動」参照)を外来で行っています。乳がん検診を受けて、乳がんを早期発見し乳房温存手術や、センチネルリンパ節生検のみで手術を行えれば理想的です。
2.薬物療法
ホルモン療法
乳がん全体の7~8割の患者さんの乳がん細胞には、女性ホルモンが結合できる、エストロゲン受容体、またはプロゲステロン受容体があります。このような乳がんには、女性ホルモンの働きを抑えるホルモン療法を行います。副作用が少なく、薬が効いている期間が長いため、乳がん術後の再発予防や、再発後の治療に大変有効です。
当科では、転移や再発乳がんの患者さんを対象に、エストロゲンを用いたPET検査を臨床試験で行っています。患者さんにエストロゲンを投与し、乳がん転移腫瘍のエストロゲン受容体に結合したエストロゲンを分子イメージングで画像化します。体に散在する乳がん転移腫瘍にエストロゲン受容体が存在すれば、その部分が黒く映り、ホルモン療法の効果が期待できます。転移腫瘍から組織を採取しなくても、エストロゲン受容体の存在を知ることができます。現在まで良い結果が出ており、臨床応用に向けて、このエストロゲンを用いたPET検査を継続しています。
化学療法
腋窩リンパ節転移のある乳がん患者さんは、再発する危険性が高くなるために、抗がん剤で再発を予防しています。約3~4割の方に再発を予防できる効果が期待できます。
乳がんの抗がん剤は、主に2種類でアントラサイクリン系とタキサン系があります。これらの薬剤の有効性を予測する検査では、現在、保険適用のものはありませんでした。当科では、トポイソメラーゼIIと呼ばれるたんぱく質が乳がんの細胞に存在する患者さんには、アントラサイクリン系抗がん剤が有効だという研究報告があるため、抗がん剤治療を受ける患者さんごとに、トポイソメラーゼIIが存在するかどうかを調べました。
トポイソメラーゼIIのある患者さんには、アントラサイクリン系抗がん剤を主に投与し、トポイソメラーゼIIの存在しない患者さんには、アントラサイクリン系以外の抗がん剤を主に投与しました。その結果、予後(治療経過)が悪いとされているトリプルネガティブ乳がん(ホルモン受容体とHer2の両者がない乳がん)とHer2陽性乳がんにおいて、再発する患者さんが大変少なくなりました。また、アントラサイクリン系抗がん剤の副作用を軽減させることができましたので、日本乳癌学会で発表しました。Her2陽性乳がんに対する分子標的薬も保険適用に沿って化学療法と併用し、再発しない治療を行っています。
3.遺伝性乳がん・卵巣がん患者さんのカウンセリングと遺伝子検査
親から受け継いだ遺伝子の中に、BRCA1/2遺伝子があり、その遺伝子に変異があると乳がんと卵巣がんになりやすい体質になり、その頻度は400人から500人に1人の割合ということが分かってきました(図2)。若年発症、血縁者に乳がん・卵巣がんの方が複数いる、または膵(すい)がん、前立腺がんの方も多い、両側の乳房にがんができるなどの特徴があります。

図2 BRCA遺伝子変異と乳がん・卵巣がんリスク
当科では、このような特徴のある乳がん・卵巣がん患者さんとその家族の希望者に、遺伝カウンセリングを行っています(表)。遺伝性の乳がん・卵巣がんの特徴、若年発症を考慮した乳がん・卵巣がんの早期発見を目的とした定期検査、患者さんの家族歴から予測されるBRCA1/2遺伝子変異のある確率、血縁者への遺伝子変異が受け継がれる確率、乳がん・卵巣がんの予防手術、BRCA1/2遺伝子検査の利点と欠点について、臨床遺伝専門医が説明しています(図3)。
●45歳以下で診断された若年者乳がんの方 |
●60歳以下で診断されたトリプルネガティブ乳がんの方 |
●2個以上の乳がん腫瘍がある方 |
●卵巣がんの方 |
●男性乳がんの方 |
●乳がんを発症したことがあり、かつ以下の内容にあてはまる 血縁者(第1度・第2度・第3度近親者)がいる方 ・50歳以下で乳がんを発症 ・卵巣がんを発症 ・乳がんまたは膵がん、前立腺がんを発症(2人以上) |
(NCCN「乳癌および卵巣癌における遺伝学的/家族性リスク評価」をもとに作成)

図3 常染色体優性遺伝
保険適用がないため、自費診療となりますが、遺伝カウンセリングは1回1時間5000円で受け付けています。この遺伝カウンセリング・遺伝子検査を受けることにより、通常の乳がん検診(40歳以上)では発見できない乳がん・卵巣がんを早期に発見でき、若い生命を守ることができます。最近では、BRCA1/2遺伝子以外の遺伝子変異でも、乳がんを若年から発症することが分かってきており、リフラウメニ症候群、Cowden(カウデン)症候群、リンチ症候群の遺伝カウンセリング、遺伝子変異陽性者への定期検査を準備しています。
以上、当科での乳がんの最新治療を説明しました。
乳がんに罹患しても治癒を希望される患者さんに選んでいただける病院を目指して、今後も努力いたします。