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愛着障害の最新治療 こころの傷を癒やしにかえて

子どものこころ診療部 滝口 慎一郎 特命助教 友田 明美 部長・教授

愛着障害:反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害とは

幼い頃に不適切な養育(虐待や育児放棄)を受けた子どもは、安心感や愛情が満たされないため、親子の愛着(アタッチメント)がうまく築けなくなることがあります。自己肯定感を持てず、幼児期以降に大人や友だちとの交流、こころのコントロールに問題を起こしてしまいます。これを愛着障害といい、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害に分類されます。

反応性アタッチメント障害は、うれしさや楽しさの表現が少なく、つらいときや甘えたいときも素直に甘えられず、人のやさしさに嫌がる態度を見せます。相手に無関心で用心深く、信頼しないなど人との交流や気持ちの反応の少なさがあり、一見すると発達障害の自閉スペクトラム症(ASD)のような症状を示します。説明のつかないイライラや悲しみ、不安などこころのコントロールに問題もみられます。

一方、脱抑制型対人交流障害は、初めての場所でも振り返らずに行ってしまう、初対面の見知らぬ大人にも警戒心なく近づき、過剰になれなれしい言葉や態度で接して、ためらいなくついて行くなどの行動がみられ、一見すると注意欠如・多動症(AD/HD)のような症状を示します。大人の注意をひこうとしますが、同年代の子どもとは信頼関係や仲間関係を築くことが難しい状況です。

当診療部での治療の特徴

まず、子どもが安全で安心できる場を提供します。心理検査や知能検査で現在のこころの発達状況や行動を確認し、言葉や絵などで気持ちを評価して必要な治療を提案します。場面にあった適切な行動と対人コミュニケーションを促すために「ソーシャルスキル・トレーニング」や生活習慣改善・学習アドバイスを行っています。さらに、大人や友だちとの間の信頼感や自己肯定感を育てるため、子どもと親密にかかわり、要求や喜怒哀楽の気持ちの表現方法を広げます。

子どもの不安や怒りの感情は、リラックス法や認知行動療法でよりよい考え方を学ぶことでコントロールしやすくなることがあります。当診療部には全国でも数少ない子どものこころ専門医やトレーニング・資格認定を受けた心理士がいます(当院ホームページもご覧ください)。箱庭療法(写真)や遊戯療法(プレイセラピー)に加え、専門的な心理療法として眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)、トラウマに特化した認知行動療法(TF-CBT)を実施しています。また、薬物療法として、気分調整薬や漢方薬の抑肝散(よくかんさん)、四物湯(しもつとう)、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)などを処方しています。現在、当診療部では愛着や信頼に関係する「オキシトシン」ホルモンに注目した臨床試験に取り組み、病状の解明と新しい治療法の可能性を調べています。

写真 箱庭療法の様子