心臓血管外科
心臓・大血管・末梢血管のさまざまな疾患に対する外科治療を行っています。当院では、心臓移植以外のすべての手術を行うことができます。また、“24時間断らない診療科”を心掛け、福井県内の心臓疾患の最後の砦として、大学病院の使命を果たします。
診療体制・治療方針
心臓血管外科は5人体制で、教授を筆頭に心臓・大血管チームと血管カテーテルチームに分かれています。3人が心臓血管外科専門医(一人は指導医)であり、3人がカテーテル治療の実施資格(一人は指導医)を有しています。治療法の選択や手術の適応については、ガイドラインを遵守し、循環器内科医、紹介医などと十分なディスカッションを行って決定し、その内容を患者様、ご家族に分かりやすく説明します。必要に応じて、大学病院の特色である幅広い診療科から専門的な助言・協力を得て治療成績の向上に努めています。全医局員で一人の患者様を救命するために、毎朝全員で回診、カンファレンスを行っています。
当院では、すべての心臓・血管疾患に対して、患者様の状態(年齢、体力など)に合わせて、適切な手術を行いますので、お気軽に外来受診してください(水曜日:福井、山田、田邉/金曜日:髙森、田邉)。
得意とする分野
冠状動脈疾患
冠動脈疾患とは、心臓を栄養する冠動脈(右冠動脈、左冠動脈)が動脈硬化により、狭窄もしくは閉塞して発症します。症状は多岐にわたりますが、胸痛、左肩への放散痛、歯の痛みなどがあります(図1)。急激に閉塞すると、心筋が壊死し心筋梗塞に至ります(図2)。心筋梗塞の場合、カテーテルにより閉塞部位の再疎通が行われます。一方、狭窄病変が多くなると、冠動脈バイパス術が推奨されています(図3,4)。カテーテル治療の方が低侵襲ですが、糖尿病や低心機能の患者様においては、冠動脈バイパス術の方が遠隔予後を改善する可能性があります。バイパスには、患者様本人の血管(内胸動脈、足の大伏在静脈、手の橈骨動脈)を用いて、バイパスを行います。
冠動脈バイパス術には、人工心肺を使用する方法(CABG)と人工心肺を使用しない方法(OPCAB)があります。それぞれにメリット、デメリットがあります。当院では、循環器内科との合同カンファレンスを行い、一人一人の患者様につき、いずれが最適かと見極め、治療方針を決定しています。
弁膜症手術
心臓には4つの弁があり、それぞれが心臓の拍動に合わせて、開閉しています。その開閉機能に障害があると、放置することで、心不全に陥り、寿命が短くなる可能性があります。近年、症状や心収縮能の低下がなくても、早期に手術をした方が寿命が延長すると報告され、早期手術が推奨されています。当院では、循環器内科とカンファレンスを行い、手術方針や時期を患者様の年齢や併存疾患を考慮して緻密に計画し、手術を行います。下記に、弁膜症の中で、代表的な疾患に対する当科での治療方針を提示します。
①大動脈弁狭窄症
弁膜症疾患の中で最も頻度が高い疾患です。心臓の出口にある大動脈弁が石灰化することで狭窄し、胸痛、失神、突然死を引き起こす可能性があります。高度狭窄でかつ症状を伴う場合には突然死の可能性があるため、できるだけ早期の手術を行うようにしています。
手術は、開胸心停止下で行う大動脈弁置換術と両側鼠径部の小切開(約2cm)もしくは穿刺のみで施行できる経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI, タビ)があります。開胸による大動脈弁置換術が、世界的に見て現在でもgold standardです。年齢に応じて、生体弁(ブタもしくはウシ)か機械弁に取り替えます(図)。しかし、高齢(80歳以上)、低肺機能、心臓手術既往など通常の大動脈弁置換術ではリスクが高いと判断される患者様には、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)の方が望ましい場合もあります。通常の大動脈弁置換術では開胸し、人工心肺を用いて心臓を止めて手術を行います(手術時間:約3時間)が、TAVIでは人工弁を装着したカテーテルを用いて大動脈弁を置換する手術です(手術時間:約1時間)。当院では、一人一人の患者様について、循環器内科とカンファレンスを行い、どちらが最適かを判断します。
②大動脈弁閉鎖不全症
心臓の出口にある大動脈弁が、うまく閉鎖しない病気です。放置すると、左室拡大をきたし、心機能が低下し、心不全に陥ります。近年は無症状であっても、心機能の低下により寿命が短縮すると証明されています。大動脈弁閉鎖不全症の原因は様々ですが、弁自体に原因がある場合は生体弁もしくは機械弁による大動脈弁置換術を行います。また、大動脈基部(大動脈弁を支えている場所)拡大が原因の場合には、大動脈基部置換術(Bentall手術、大動脈基部と大動脈弁を同時に替える)もしくは自己弁温存基部置換術を行っています。
③僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症は、左房と左室の間にある僧帽弁がうまく閉鎖せず、左室から左房に血液が逆流し左房に負荷がかかることによって、呼吸困難や不整脈の症状が出現し、放置すると、心不全に陥ります。近年、症状が出現する前に手術を施行した方が、長期寿命が期待できると報告されています。僧帽弁閉鎖不全症の原因は様々ですが、多くは僧帽弁を支えている腱索が断裂もしくは延長していることが原因です。当院では、断裂した腱索の代わりに、人工の腱索を立て自己弁で修復しています(僧帽弁形成術)。僧帽弁自体が破壊されている場合は、生体弁や機械弁を用いて、僧帽弁置換術を行います。弁形成術と弁置換術にはそれぞれメリット、デメリットがあるため、患者様の年齢や心機能によって判断しています。詳細は外来担当医にお気軽にお尋ねください。
④低侵襲僧帽弁手術
従来の胸骨正中切開(傷約25cm)ではなく、右肋間を約6cm切開して、胸骨を切らずに僧帽弁手術を行う方法です。術後運動機能の回復が早く、傷が目立たないという点から美容面にも優れています。年齢、体格、心機能によって適応にならない場合もありますので、お気軽に外来受診をしてください。
⑤メイズ手術
年齢や弁膜症疾患により心房に負荷がかかると心房細動と言われる不整脈が起こりやすくなります。心房細動は、適切な投薬や治療が行われなければ、脳梗塞の頻度が上昇します。当科では、弁膜症を有した患者様で心房細動を有している場合は、積極的にメイズ手術(心臓内の異所性電動路を切断する)と呼ばれる手術を行い、規則正しいリズムに戻すようにしています。
大動脈手術
大動脈疾患は、大きく分けて血管径が拡大し破裂する可能性がある大動脈瘤と血管壁が裂ける大動脈解離があります。大動脈瘤の場合は、ほぼ症状はなく、偶発的に発見されることがほとんどです。しかし、破裂すると、半数は病院到着前に死亡する可能性があるため、大動脈径が5cm以上に拡大している場合(正常は3cm未満)は手術が必要です。一方、大動脈解離の多くは、急激な胸背部痛を訴えることが多く、解離している場所によっては緊急手術を必要とします。
当院では、開胸手術、開腹手術、カテーテル治療(ステント治療)のすべてに24時間対応可能であります。毎朝カンファレンスを行い、大動脈瘤および大動脈解離の場所や形態、患者様の年齢に応じて、最も適した手術を緻密に計画しています。
①胸部大動脈瘤
胸部(横隔膜より頭側側)の大動脈が瘤化した状態です。一般的に、大動脈瘤の大きさが5cmを超えると手術が必要です。開胸のみで手術(一期的)を完成させる場合と開胸とステント治療を組み合わせたハイブリッド治療(二期的)、ステント(カテーテル)治療のみで完成させる治療法(TEVAR)があります。当科では、心臓血管外科5名のうち3名はステント治療の実施資格を有し(一人は指導医)、すべての治療法に対応できます。それぞれの治療法にはメリット、デメリットがあり、年齢や瘤の場所、形態に応じて、緻密に術式を検討します。
胸部大動脈瘤に対するハイブリット治療(Debranching TEVAR)(2回の手術に分ける)
胸部大動脈瘤に対する一期的全弓部置換術(1回ですべての治療)
②胸腹部大動脈瘤
胸腹部大動脈瘤は、大動脈瘤手術の中でも、頻度が少なく、最も手術が複雑で、他の動脈瘤に比べて死亡率や合併症が高い手術です。ほぼ無症状で経過するため、偶発的に発見されます。腹腔動脈、上腸管膜動脈、左右腎動脈がこの部位の大動脈から起始します。また、脊髄の栄養に重要である肋間動脈も起始するため、術後に下半身麻痺などの合併症が起こることがあります。当科では、最新の脊髄麻痺予防を積極的に行い、人工血管置換術を行います。
③腹部大動脈瘤
腹部大動脈が瘤化した状態です。大動脈瘤の発生部位で最も多いのが腹部大動脈瘤です。正常の大動脈径は3cm未満ですが、これが拡大し、5cm以上になると手術適応となります。ほとんどが無症状で、偶発的に発見されます。手術には、腹部を正中切開して、大動脈を人工血管に置換する方法と両側鼠径部を約2cm切開して、カテーテルを使用してステント付き人工血管を大動脈瘤内に留置する方法(EVAR)があります。当院心臓血管外科には、ステント治療施行医が3名いるため、どちらの手術も施行可能です。患者様の状態、瘤の形態に準じて、最適な治療を判断します。
67歳男性で7cmの腹部大動脈瘤に対し、Y型人工血管置換術を施行
手術時間:4時間。腹部正中切開(傷約25cm)。術後2週間で退院。
87歳の腹部大動脈瘤、腸骨動脈瘤を有した患者様にカテーテル治療(EVAR)施行
手術時間:1時間30分、両側鼠径部(足の付け根)を約2cm切開。
術後1週間で退院。
③急性大動脈解離
急性大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂が入り、大動脈の壁が内膜と外膜に分離することです。多くの場合が、緊急手術を必要とし、放置すると死亡する可能性が高くなります。当科では、人工血管置換、ステント治療を駆使し、救命を第一に質の高い手術を行っています。
科長・スタッフ紹介
弁膜症・冠動脈疾患・大動脈瘤
血管外科・大動脈ステントグラフト・下肢静脈瘤レーザー治療
助教・外来医長 | 髙森 督 | 心臓血管外科一般 |
助教・病棟医長 | 田邉 佐和香 | 心臓血管外科一般 |
助教 | 前田 修作 | 心臓血管外科一般 |
医員 | 安永 聖 |
兼任
教授(医療安全管理部) | 森岡 浩一 | 虚血性心疾患・弁膜症・大動脈外科・血管外科・感染制御 |
学会等認定制度による施設認定
学会等名 | 事項 |
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心臓血管外科専門医認定機構 | 専門医認定修練施設(基幹施設) |
外来診察予定
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
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午前 | 【初診・再診】 山田 就久 高森 督(第2) 森岡 浩一 〔心臓血管外科〕 |
【初診・再診】 福井 伸哉 田邉 佐和香 〔心臓血管外科〕 山田 就久 |
【初診・再診】 髙森 督 田邉 佐和香 〔心臓血管外科〕 |
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午後 | 【初診・再診】 前田 修作 〔心臓血管外科〕 |
【初診】 〔心雑音外来〕 〔大動脈瘤外来〕 |